今日のハルカ 第六回 (お父さん 受難(というか自業自得)

離婚した元妻がどうやら再婚するらしいということを知ったお父さん。相手の人はいい人だしやっぱり自分なんかと離婚してよかったよかった、なんて言ってる父にハルカは怒ります。

「ほんとにそれでよかったって思ってるん?悔しくはないん?」

それに対してお父さん、

「そりゃあそうだろう。離婚したからこそ、会計士にもなれたしあんな立派なマンションにも住めるようになったしあんな素敵な人とも出会えた」

ハルカはこの言い草に対して言う。お母さんは「どうして家族と別れてしまったのか」と悔しがった、その後は一人っきりでがんばった、と。

そりゃあ、確かにそう。この親父の言い草では、まるで、離婚の「おかげ」でハルカの母が今のような在り様にたどり着いたみたいなことになってしまうけれど、離婚なんてほんのきっかけ程度に過ぎないのであって、鑑みるべきなのは、当人のそれだけの努力と、努力せずにはいられなかった寂しさがあったということ(ハルカと暮らすまでは、そんな「寂しさ」なんて無かったかのように振舞っていたけれど)。

離婚してまで突っ走ったレストランの経営には失敗し、まだ気のあった元の妻との今後の可能性も全く失い、その時、ハルカの父のとった行動は、自己の正当化。「それでよかったんだよ」。

夢であったはずのレストランの再建もあきらめた父に、ほんとにそれでいいのか、と難詰するハルカであったが、父は逆ギレ気味に、もう終わったことだ!、と怒鳴り返す。一年ぶりに実家に戻ってきたハルカに気を使い過ぎなくらい気を使っていた父が、そのハルカに対して怒りをあらわにする。

愛する両親が離婚してまでこの湯布院という土地に暮らしてきた意味を、レストランを再建する、という父の夢に求めていたハルカは、「それは終わったこと」という言葉に幻滅してしまう。

「これまでお父さんの選んだきたことはみんな間違いだった。こんなことのために家族は別れなければならなかったのか。こんなことのためにお母さんはひとりぼっちにならなければならなかったのか、私たちは悲しい思いをしなければいけなかったのか」

とどめに一言

「お父さんは逃げている」

なにから逃げているかと言えば、もちろんレストランの再建という挑戦。そして、不甲斐ない自分というものを身に沁みて感じる悔しむ痛むということ(ぶどうが取れなくて、「あれはすっぱいぶとうだから取れなくても別に平気」、であるとか、元妻が再婚して、「それはよかった」、などと上っ面の納得でごまかすのではなく)。

しかし、この親父が“逃げている”責任の一端、どころか、半分くらいは当然ハルカにもある。ダメダメな親父をダメダメなまま励まし理想化していたという責任。

先週の放送で、妹アスカにハルカはこんなことを言われていた。

「お父さんは昔から頼りなかった。お父さんが小さく見えたとしたら、それはお父さんが変わったんではなく、お姉ちゃんが変わったんだ」

大阪において、ハルカが怒ってしかるべき場面で父親が激怒してみせたように、家族の外に向かっての「こうあるべき」という生き方のモデルを提供していたのもまた父親であり、湯布院にいた時までのハルカには、それが唯一のモデルでもあったし、それが理想でなければならないわけもあった。

http://d.hatena.ne.jp/fkj/20051117(下のほう)

ところが、大阪において、ばりばりと働く母親という違うモデルを見、自分も外に出て働き出したハルカの目には、いかにも父は不甲斐なく、決定的に幻滅(あるいは脱錯覚)してしまう。

これまで通りにしていても、お父さんお父さん、と持ち上げられるとあい変わらず思っているお父さんは、「ハルカ、いったいどうした?」などと言い出す始末。

愛する娘に理想化されていい気持ちになっていたところが、その投影を引き上げられ(幻滅され)、ようやっと自分の情けなさにもだえ苦しむお父さん。

渡辺いっけい演ずるところのお父さんは、ハルカが大人の役に代わったあたりから、もうほとんど挙動不審といえるくらいおどおどしていて、つまり、ハルカの理想化のおかげでそれなりに気持ちよくはいられたけれど、それが危ういものだということを、薄々は感じていたということだろう。それでも、それなりにやってこれたのは、ハルカという共犯者がいたから。「お父さんは不甲斐ない」というアスカと共に、父に対してnonを突きつけていたとするならば、また違った展開があったのだろうが、ハルカにとって一番容易に取れた戦略は、やはりマゾヒスティックな献身の戦略だったということだろう。

里帰りから大阪へと戻るときに、ハルカは言う。これでお父さんからも湯布院からも卒業だ。しかし、ハルカはまだまだお父さんから卒業はできていない。勝手に錯覚し、勝手に幻滅することで父親を振り回した、ということを思い知らない限り、父親からの卒業は無い。

どの本だったかはすぐに思い出せないのだが、わが心の師匠内田樹先生と、私の尊師神田橋條治先生が、それぞれ関係することなしにおっしゃっていたことに、「親離れするには親孝行するのが一番」というのがあった。

ハルカは、幻滅は幻滅として、父親から得てきたものにも感謝しつつ素直に親孝行ができるようになったときはじめて、親から卒業した、と言えるのだろう。