今日のハルカ 第三回
相変わらず密度濃く、始まって三週間の間にこんなに詰め込んでしまってあと五ヶ月以上持つのかという心配も出てきた私fkjがmixiからお送りします「今日のハルカ」第三回。
今日は、昨日放送分の最後で父親に言いかけた「この町を出る」という決断を伝えようとするところから始まるのですが、父親の顔を見たハルカは「やっぱりいいや」と言い出せません。これはもちろん、父親一人残していくわけにいかない、というこれまで続けてきたハルカの母親役の部分がそう言わせたのでしょう。
さすがにそこまで娘に甘えるわけにいかない父親は、娘の言わんとするところを察し、「お母さんのところに行けばいいじゃないか」と後押しをします。アスカに「不甲斐ない」とまで言われた父親を支え続けてきたハルカは、父親の手によって「後押し」される。
そもそも、父親から「自分がどうしたいのか考えてみなさい」と言われたことも「後押し」「揺さぶり」となり、それまで家族を支えることだけを考え、自分が何をしたいのかもよくわからなかったハルカは気付きます。私は、家族のことで忙しい、と、それを口実に、町の外のことや、母親に向き合ったり好きな人に告白するといった自分自身について考えることから逃げてきた、と。そのような「支え」として安定しているのではなく、変わりたい、と。
「支え」の役割は、それ自身のためでなく、他のものを安定させるためにあります。しかし、それが「押され」てしまうと、支えていた他のもののみならず、「支え」自身の安定も揺るがされる。
ハルカは不安です。不安なので、一人残るお父さんを心配することで元の安定を取り戻そうとする。でも、お父さんは、心配ないよ、と、そっと後押しする。
これまで私が書いてきた「今日のハルカ」の中では、母親的役割面ばかりに偏った記述をしてきたけれど、父親的役割面から見れば、それらもまた違った風に見える(書ける)に違いありません。アスカの「父親非難」は正当である、とか。
母親的役割を、「支え」や「安定」といった動かないことと見なすと、父親的役割は「(押す)力」や「不安定」といった動的部分・変化を担うこといってもいいでしょう。そして、これは人の営みの様々な局面で見られる普遍的な相を表しているのではないのでしょうか。というか、人間は、世界をそういう風に見てしまうように、元からできている、ということ。
参考
http://d.hatena.ne.jp/fkj/20041228
http://d.hatena.ne.jp/fkj/20041230
安心、安定しているから、とそのままにしていても、時間がたてば腹はすくし出すものも出したくなるといったように、物理的・現実的世界の変化の相に応じた「動き」は、必ず必要となります。天災や、身近な誰かの死、といったような大きな変化には、それに応じた大きな「動き」が必要となるのでしょう。しかし戦士には、つまり人間には、何もせずそこにいるだけ、という休息も必要となる。
赤ん坊はただそこにいるだけで(be)で、暖かい腕の中に抱かれ、お腹が空けばおっぱいがやってき、おしめの世話もしてもらうといったように、環境の全面的な肯定(皇帝?)のもとにいる。まずは、そこにいるだけ、で祝福されている。人の原点にはそれがある。
そのような、祝福されてはいるが無力な存在が、抱かれるままではなく立ち上がり、行動する(do)ようになるためには、より不安定なところに身をおかなければならない(不安定の使いこなし--甲野善紀)。寝ていれば安定はしていようが、決して歩けるようにはならない。
そうして不安定さを使いこなすようになってはじめて、今度は自分が誰かの(例えば赤ん坊など)の「支え」となれる。
さて、確かにハルカの父親はハルカの「後押し」をするのですが、これがまた微妙な描かれ方をしておって、実に興味深かった。母親と暮らすことはちょっと怖い、この町を出るのはもっと怖い、というハルカを励ます父親は娘にこんなことを言う。「ハルカはまるで綿アメみたいだ。風を集めて大きくなってく」。綿のようにふわふわあったかく、アメのように甘い、とは・・・。これ、要するに甘えてるんですよね、娘に。ただ、父親がだらしない、ということではない。やはり、そういう役回りで、この家族は安定していた。
そんな父親にハルカは約束する。「きっと帰ってくる。もう少し大きくなって」。その時、支えられるものは、父や妹といった家族を超えたものに及ぶかもしれません。
今日の放送ではアスカが東京に出発し、明日はハルカの旅立ちとなって、おそらく、ハルカの母親役割は今日の放送で、一端終わりということなんでしょう。そして、その一区切りに相応しいすばらし過ぎのシーンがありました。東京行きに不安いっぱいのアスカをハルカが励ますところ。
アスカ「なんもかんも怖いんよ・・」
・・・・・
ハルカ「あんた、昔っから怖がりやけんねぇ。大丈夫っちゃ。なんかあったら帰っておいで」
アスカ「帰ったって、お姉ちゃんおらんくせに」
ハルカ「そっか・・じゃあ、わたし、東京に駆けつけてあげる」
アスカ「駆けつけてどうする(っていう)ん」
ハルカ「助けてあげる」
アスカ「助けてくれる?」
ハルカ「うん!助けてあげる」
アスカ「ほんとに?」
ハルカ「うん、なんがあっても助けてあげる」
アスカ「なんがあっても?」
ハルカ「うん、なんがあっても」
アスカ「・・・おばけが出ても?」
ハルカ「うん、おばけが出たって」
アスカ「・・・・・・(泣く)」
ハルカ「もー、ほんとにすぐ泣く」(アスカを抱く)
アスカ「うるさい(泣)」
ハルカ「泣き虫」
アスカ「ばか」
ハルカ「アホ」
http://d.hatena.ne.jp/fkj/20041116
ここのページの下のほーうにちらっと紹介した、小津安二郎「おはよう」のシーンに匹敵する美しさでありました。