パトリシア・ハイスミス『目には見えない何か』

未発表短編を含む初期作品集『回転する世界の静止点』を、今年はじめ本屋で目にしたときは、え!?、といういきなり感ばかりに包まれてしまったハイスミス作品。別名義の普通小説を別にすれば、2003年、河出文庫から出た『死者と踊るリプリー』が打ち止めだとばかり思い、これが最後なんだなあ、と、ある程度喪の仕事も済ませた後だったので若干のとまどいもまじっていたかもしれない。まだ長編六作『イーディスの日記』『ヴェネツィアで消えた男』『孤独の街角』『扉の向こう側』『アメリカの友人』『リプリーをまねた少年』は読まずにとってあるんですけど。

『回転・・』は、表題作他いくつか読んで、どうも、全部読むのがもったいなくなってきたり、現在進行形の日常や興味のほうにかまけているうちに中後期短編集のこれ、『目には見えないなにか』まで出てきてしまった。

ちょっと余裕を持ちたい気分になった今週、『目には見えない何か』のほう一気に読みました。

はあああ・・・・。やっぱり、おいらこの人の小説が一番好きだわ。まあ、小説が好きなんだか、(嫌なババアだなあ・・)っていう作者が好きなんだか判然としませんが。

収録された14本のうち、四本は視点人物の自殺で幕。それとは別の一本はほとんど自殺といってもいいような事故死(周りの登場人物からは自殺、と判断されている)。一本は臨終間近の婆さんが死んで終わってて、あとは、まあ、様々。

ハッピーエンドど言ってもいいような終わり方をするものもあり・・・。

ハイスミスの小説は、とりわけ、いったいどういう風に終わるのか、ということが大切なので、個別の作品について細かに触れるのがはばかられるのだけど、一点、新聞書評やいくつか覗かせてもらったネット評で、なにか、心温まる一品、みたいな書かれ方をしている『生まれながらの失敗者』についてだけは書いておきたい。

おいら、これこそハイスミスの意地の悪ぃ〜ところ全開、としか感じられなかったんですよ。(うっわ〜、こんなとってつけたような、わざとらしい、というか、クサい落ちって、最低!さすがだよ)と、もうそういう風にしか感じませんでした。これって、人格偏差値35のおいらだからそう思っちゃうのかなあ。これだけでもいいんで多くの人の感想を聞いてみたい気がします。

・・・・。んん、やっぱり、ハイスミス作品の極北とも言える『女嫌いのための小品集』と『世界の終わりの物語』を読んだ上で、「生まれながらの失敗者」の感想を聞きたい。

それにしても、「生まれながらの失敗者」って、タイトルだけで嫌味だよなあ。『女嫌い・・・』には「天下公認の娼婦、またの名は主婦」なんてのもあります。「出産狂」だの「陽気な原始人ウーナ」なんてのも。『回転する・・・』には「とってもいい人」なるタイトルのものがあるがまだ読んでない。ヤな話なんだろうなあ。

あ、この未発表作含めた二冊の短編集の装丁、いずれも閑散とした公園をバックに虚ろな目をした人物の胸から上の肖像が描かれていて、それが実にハイスミスっぽく不気味で素敵。