オラフ・ステープルトン『シリウス』ハヤカワ文庫SF

文庫で300ページほどだったけど少々読むのに骨が折れた。

天才生理学者トレローンが様々な試行錯誤の上に作り上げた人間に匹敵する知能を持つ“超犬”シリウスの物語。人間並みの知能を持つ犬としての困難やそれに敢然と立ち向かうシリウスの不屈の闘志、犬としての本能、人間以上に人間を“客観視”できてしまう悲哀、等々、その生育過程からの微に入り細を穿った記述をしている書き手が、冒頭とおしまいあたりに、ちょっとばかりシリウスとの関係が描かれるだけで、あとはシリウス本人の残した手記と関係者からの伝聞をまとめただけ、というところからくる、当事者視線の欠如、とまでは言い過ぎかもしれないけれども、不足、が、決定的に退屈さを呼び込んでいるように思われた。そのくせ、人間社会に対する批判的見解が、まるのままシリウスの思考であったかのように書かれていて、それは、物語の結末を知っている書き手(あるいは読者)から見れば、そのように書かざるを得ない、というか、書いてしまいたくなるというもわかるのだけれど、それでも、その書き方はどうしようもなく人間化していて、『ソラリス』のレムからしてみれば、そんなものは何ほども“他者”の姿とは認められないだろう。

何度か、読むの止めようか、とも思ったけれど、それなりに余韻を残す結末で、今日、実に見事に咲き誇っていた武蔵野市役所近くの桜並木を散歩していた犬を見ては、おお!シリウス!!、と思ってしまった。今、犬を飼うはめになったら名前は確実にシリウスだな。