アントニイ・バークリー『シシリーは消えた』

本格苦手、と言いつつ、黄金時代の中心でもあるバークリーだけはちょっと読んでみたい、と常々思っていたところ、図書館に新着で入ってたこれ、たまたま見つけ借りてみました。この作品、なにやら作者の死後にその存在が発掘された幻の一品だということで、『毒入りチョコレート殺人事件』でも『殺意』(アイルズ名義)でもなくていきなりこういうのから入るというのはどうなんだろうという気がしないでもない。

それでも、読み始めるとすぐ、あ、これはやはりただの探偵小説ではないぞ、と期待を持たせてくれた。不労所得でしか暮らしたことのない青年が財産を食いつぶし、働かなければならなくなって行った先が、知人のいるお屋敷の従僕としてだった、という境遇・立場の微妙さとそこからくる本人やまわりの反応というものがユーモラスに丁寧に描かれていたり、事件のはじまりが降霊会ということで、以前に読んだサラ・ウォーターズの『半身』を思い出して、おどろおどろしげな様相をも示してくれそうだぞう、と思えてたあたりまでは。

とっころが、事件が起こって主人公の立ち位置もある程度固まってくると話の展開は当然のごとく謎解きがメインとなってくる。平行して恋バナも進行するんだけど、その相手といっしょになって推理のし合い(試合)なんかはじめると実に鼻が漂白される思いに満たされてしまった。

どのみちそうたいしたトリックを使ってるわけではないのだから、話はそのままで探偵ごっこの事細かなシークエンスを削りもっとままならない人間関係について書いてくれてたほうが私好みではありました。

降霊会も『半身』読んだ目で見るとほとんど生きてないように見える。あれほどうまくはなかなかいかないだろうけど。